精巣(睾丸・金玉)の腫れ・痛みとは
男性の多くが、これまでの人生で精巣(睾丸・キンタマ)の痛みを経験されてきたと思います。精巣の痛みは一時的なこともありますが、何らかの疾患が隠れていて、治療が必要なケースもあります。
精巣は、子孫を残すために必要な精子を形成する大切な臓器であるため、僅かな変化でも気付きやすい構造になっています。
精巣や陰嚢の違和感や腫れ・痛みがある場合は、遠慮なくご相談下さい。
精巣の腫れを伴う疾患
精巣がん
精巣がんは、名前の通り精巣にできるがんです。
精巣が肥大し硬くなる場合が多く、進行すると肺や腹部のリンパ節に転移しやすいと言われています。
30歳以前に発症が多く、身体の外から触れる部分のため、自分自身で気付くことが早期発見に繋がります。部位がデリケートであるために受診が遅れ、早期発見に至らないケースがまれにあります。
速やかに手術を行い、精巣と精索の一部をまとめて摘出します。精巣がんは組織分類が多岐に渡るため、きちんとした組織診断が今後の治療方針において重要となります。
ステージによっては、放射線治療や抗がん剤治療を追加で行う場合もあります。
陰嚢水腫
陰嚢内(精巣周囲)に体液が溜まる疾患を、陰嚢水腫と言います。
40歳以上での発症が多く、体液量が少ない時は目立ちませんが、量が増えてくると下着やズボンの上からでも確認できるようになります。
多くは悪性疾患ではないため放置して問題ありませんが、近年では稀に悪性腫瘍の合併が起こることも確認されています。悪性腫瘍の場合、手術にて陰嚢を切開し、液体の周囲にある膜を摘出します。手術後の再発は、ほとんど無いとされています。
精巣捻転
精巣が陰嚢の中で捻れてしまう疾患で、精巣への血流が途絶えて壊死を起こすこともあります。10代に多く、就寝中に発症しやすいと言われています。精巣が捻じれることで、陰嚢内の激しい痛みや腫れ、吐き気や嘔吐、腹痛などの症状が起こります。
自然に捻れが戻り、痛みが治まる場合もありますが、手術が必要なこともあります。陰嚢を切開し、再び捻れることがないように陰嚢内で固定します。
術中、捻れを解消した後も精巣の血流が回復しない場合は、精巣が壊死したと判断して、摘出しなければなりません。
急性精巣上体炎
細菌が尿道から精巣の外側(精巣上体)に侵入して、炎症を起こす疾患です。片方の陰嚢内容物の腫れや痛み、顕著な発熱が見られます。
クラミジアなどの性感染症が原因になることもありますが、通常は大腸菌などが原因菌になります。
症状が重い場合、手拳大に大きく腫れ上がり、強い痛みを生じます。
抗生物質の投与が行われますが、クラミジア感染を疑う場合は、アジスロマイシンの投与を行います。
また、治療期間中は陰嚢(金玉)を冷やすことで痛みを軽減できます。
精巣の痛みを伴う疾患
精巣がん
精巣に生じる悪性腫瘍です。痛みを感じない場合が多いですが、下腹部の重圧感や鈍痛を感じるケースもあります。また、10%で急性の精巣痛があります。
精巣の大きさが左右で異なる場合は、検査を受けることをお勧めします。
超音波検査で、精巣の形や大きさなどをチェックします。精巣がんを疑う場合は、速やかに手術可能な施設に紹介します。
精巣捻転
精巣が回転することにより、精巣を栄養している血管や精管が捻れてしまう疾患です。
10代での発症が多く、陰嚢部に突然の激しい痛みを生じます。放置すると、精巣が壊死してしまう緊急性の高い疾患です。例外的に下腹部痛のみのケースもあり、10代での下腹部痛では、この疾患を考慮しなくてはなりません。
超音波検査を行い、精巣内の血流を確認します。明らかに左右差のある場合には、この疾患を強く疑い、速やかに手術可能な施設に紹介します。実際に捻転を起こしているかを、陰嚢を試験切開して直接確認する必要があるからです。
精巣捻転は6時間以内に解除しないと、壊死が進行してしまいます。切開して捻転を解除した後も血流改善が見られない場合は、精巣摘除になってしまいます。血流回復した際には、再発予防で固定術を行います。その際には、対側精巣も固定することが多くなっています。
精巣上体炎
精巣に隣接している精巣上体が炎症を起こし、発熱や疼痛が出現する疾患です。比較的急激に発症するケースもあり、その際には精巣捻転との鑑別が必要になります。淋菌やクラミジア感染症、尿道カテーテル留置中に発症することが多いですが、原因を特定できないこともあります。
多くの場合は、尿検査にて白血球の増加を確認できます。鎮痛剤や抗菌剤を投与し、1週間程度で改善する傾向にありますが、腫れが慢性化してしまう場合があります。他にも、陰嚢(金玉)を冷やすことで、痛みが緩和されることがあります。
精索静脈瘤
精巣の周囲にある静脈に瘤ができることで、陰嚢(金玉)に痛みや締め付けられるような違和感をもたらす疾患です。典型例では、陰嚢(金玉)の左側が痛みます。また、鼠径部の痛みや、歩行時の痛みが見られることもあります。静脈瘤ができることで、陰嚢内の温度が上がり、男性不妊の原因になると言われています。現在、あるいは将来的にお子様を望まれている場合には、手術を勧めることもあります。なお、手術が必要な場合には、専門医療機関に紹介します。
精巣損傷・精巣外傷
外部からの力によって、精巣が損傷を受けた状態を精巣損傷(精巣外傷)と言います。多くは、事故やスポーツなどが原因で生じます。精巣表面の膜に断裂がなく、出血が止まっていれば経過観察で問題ありません。
膜が断裂していて出血が続く場合には、陰嚢切開し、縫合手術を行う必要があります。
ムンプスウイルスによる精巣炎
ムンプスとはおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)のことで、ムンプスウイルスの感染によって生じる精巣の炎症を、ムンプス精巣炎と言います。耳下腺の腫れを起こさずに、精巣炎のみ発症することもあります。主な症状は、急激な精巣の腫れや痛み、発熱などです。精巣上体炎を合併することも多いため注意が必要です。ウイルスが原因であるため、治療は対症療法のみです。鎮痛剤内服や局所冷却などを行います。罹患後は精巣が萎縮してしまうケースも多く、片側で10%程度、両側で30%程度の確率で男性不妊になると言われています。